美容医療業界初のライブコマース事例

執筆
Roanne
編集
Kaylee
💡 要点まとめ
企画段階でまず審査ガイドラインを作成し、効果の断定・価格の表示・口コミ的な表現を禁止する基準から固めることで、医療広告リスクに対応しました。
配信中はQ&A形式の台本と想定質問リストで突発的な事態に備え、その土台には、ブランド・クリニック・技術パートナーの役割を明確に分けた協業体制がありました。
美容医療業界におけるライブ配信の普及は慎重かつ段階的に進むと見られますが、ライブ配信のAI技術によって参入障壁は下がっていく見通しです。
美容整形や施術といった美容医療の分野は、これまでライブコマースとは縁遠い業種と見なされてきました。医療法上、表現のひとつひとつに注意が必要なため、リアルタイムで配信するという形式そのものがリスクに見えたからです。ところが韓国の美容医療プラットフォーム「カンナムオンニ」が、2026年7月14日、業界初のライブ配信を実施しました。運営・制作と技術の両面から、この課題を解決できたためです。今回のライブで企画・制作を担当したライブコマース専門の制作会社The CNMのチャ・ギョンイン統括ディレクターに、実際にどのように実現したのかを伺いました。

医療広告リスクは、どう乗り越えたのか
Q. これまでファッションやビューティー領域のオンラインブランディングを多く手がけてこられました。そうしたプロジェクトと比べて、今回のカンナムオンニのライブは準備の段階から大きく違ったのではないでしょうか。
一番大きな違いは、「何を伝えるか」ではなく「何を言ってはいけないか」から出発した点です。ファッションやビューティーのコマースは、いかに魅力的に見せるかが核心ですよね。ところが医療のライブ配信は、台本の一行一行がすべて医療広告規制の枠内に収まっていなければなりません。ですから私たちは、キューシートを書く前に審査ガイドラインから作りました。効果の断定は禁止、価格の表示は禁止、口コミ的な表現は禁止。まずこうした原則を立てておき、その枠の中で面白さを設計する。順序が完全に逆転した作業でした。
Q. 美容医療は広告審査の論点が多いカテゴリーなので、演出の段階から一般的なライブコマースとは制約が多かったと思います。特に注意されたのはどの部分でしょうか。
大きく3つです。1つ目は、施術の場面を画面に映さないことです。代わりに、比喩を使って原理を説明しました。針や侵襲的な場面を映さず、原理だけを言葉で解きほぐすやり方です。たとえば保持靭帯(リガメント)の施術を、プリーツスカートにたとえました。スカートのプリーツを留めている糸をほどくとシワがすっと伸びる、という具合です。
2つ目は、「誰が話すか」を管理することでした。クリニックの運営に関する話は必ず院長ご本人が話し、司会者は質問とリアクションのみを担当するようにしました。司会者がクリニックを説明した瞬間、第三者の推薦や保証のように見えてしまう可能性があるためです。
3つ目は、ビフォーアフター画像の要件です。撮影時期の明記に副作用の併記、院長の説明までをセットで揃える必要があるので、画像1枚に付随する条件が、そこそこの商品詳細ページ1本ぶんに相当します。実のところ、この基準を知っているかどうかが、このカテゴリーの本当の参入障壁だと考えています。クイズや特典といった楽しませる要素についても、相談への誘導と文章を切り分けるところまで、あらかじめすべて法務とすり合わせました。
📌 ポイント。
まず審査ガイドラインを固め、その枠の中で演出を設計するという順序。そして施術の場面・発話する主体・ビフォーアフター画像という3つの基準。これが今回のライブが医療広告リスクを乗り越えた方法でした。
業界初のライブ、配信中の変数まで想定しました
Q. 今回は医療従事者が配信の主役だったことが大きな差別化ポイントです。一般的なインフルエンサーのディレクションとは、まったく異なるアプローチだったのではないでしょうか。
インフルエンサーのディレクションが「より強く」する作業なら、医療従事者のディレクションは「正確に、そのうえで自然に」する作業です。院長方は放送のプロではなく、専門家ですから。ですから私たちがやったのは、話し方を変えることではなく、構造を変えることでした。院長が一人で説明を続ける講義型の台本を、すべてホストが尋ねて院長が答えるQ&A形式に組み替えました。リハーサルでぎこちなさを感じられた文章は、その場で院長が話しやすい表現に一緒に書き換えています。
さらに台本にない状況に備えて、「こう話してください/これは避けてください」を1枚もののアドリブガイドにまとめてお渡ししました。おかげで配信中にどんなチャットが流れてきても、院長はその基準の中で落ち着いて受け止めることができました。
Q. 業界初のライブでしたが、実際に進めてみて運営面や反応の面で予想と違った部分はありましたか。
チャットの「質」が予想と違いました。一般的なコマースでは価格に関する質問がほとんどですが、今回は「肌が敏感なのですが受けても大丈夫ですか」「あざはどのくらい残りますか」といった、実際のカウンセリングルームで出てくるような質問が並んだのです。私たちはこうした状況を想定して想定質問対応シートを事前に用意していたのですが、それがほぼそのまま的中しました。個別の診断が必要な質問はどこまで答え、どこから診療案内に引き継ぐのか。そこまで事前に決めておいたおかげで、現場で判断が揺らぐことはありませんでした。
📌 ポイント。
Q&A構造に組み替えた台本と、事前に用意した想定質問対応シート。この2つが、配信中の突発的な変数にまで備えられた理由です。

明確な役割分担とAI技術力が、初挑戦を成功に導きました
Q. 初めて挑戦するカテゴリーで不確定要素も多かったと思います。ブランドや技術チームと準備を進めるなかで、役割はどう分けられたのでしょうか。
役割が明確だったことが成功要因でした。
カンナムオンニはプラットフォームとユーザーデータ、法務レビュー、特典設計を担当し、クリニックは医療情報の正確性と出演を担いました。私たちは企画・台本・演出・現場運営の全体を統括しています。技術はShopliveが担当しましたが、いくつものプロジェクトをともに手がけてきて互いの機能仕様を熟知している関係なので、協業のスピードが違いました。
私たちは企画段階から、Shopliveのクイズポップアップ、リアルタイム投票、ポイント即時付与の機能を前提に台本を組んでいたのです。「何分にどのインタラクションが出て、正解者全員にポイントがすぐ付与される」というところまでタイムコードに書き込んで渡せば、そのまま実装される構造でした。特に特典を抽選ではなく正解者全員への即時付与として設計できたのは、この機能が使えると分かっていたからこそ、最初から選べた選択です。法務リスクを抑えながら、参加している実感は高める。Shopliveの技術をよく理解していることが、むしろ規制対応の答えになったわけです。当日もShopliveの担当者が現場に常駐して配信を一緒に運営してくれました。長く息を合わせてきたチームなので、初めてのカテゴリーでも技術的には揺らぎがありませんでした。
Q. リアルタイム配信だけにチャットの管理も神経を使われたと思います。配信中に取り上げられる可能性のあるコメントは、どう管理されたのでしょうか。
リアルタイムであるがゆえに、私たちが最もコントロールしにくい変数がまさにチャットでした。
そこでここはShopliveのAI Chat Moderationを積極的に活用しました。 医療法に触れる可能性のある表現や競合クリニックへの言及、不適切なコメントなどが、リアルタイムで事前にフィルタリングされるよう設定しておいたのです。人が一つひとつ確認しようとすると配信の流れが途切れてしまいますが、技術が手前で振るい落としてくれるので、運営リスクは下がり、司会者と院長はコンテンツだけに集中できました。結果として、視聴者にとってもはるかに安全で心地よいライブ環境になりました。
📌 ポイント。
カンナムオンニ・クリニック・制作会社・Shopliveが役割を明確に分け、すでに息の合ったパートナーシップで技術を支えたこと。これが、初めて挑戦するカテゴリーを成功に導いた背景でした。とりわけリアルタイムチャットのリスクについては、ShopliveのAI Chat Moderationが医療法に触れる表現や不適切なコメントを事前に振るい落とし、規制産業でも安心してライブを運営できる基盤となりました。
美容医療業界のライブ、参入障壁は下がる見通しです
Q. 今回のカンナムオンニの事例をきっかけに、今後、美容医療・施術の業種でライブはどのように広がっていくとお考えですか。
広がる可能性は十分にあると考えています。ただ、方向性は一般的なコマースとは少し違ってくると思います。
「今すぐ買ってください」ではなく、信頼を積み上げる情報型のライブとして定着する可能性が高そうです。このカテゴリーでは、消費者の本当のペインポイントが価格よりも「何が何だか分からない」という情報の非対称性にあるからです。一方でスピードは、業種の特性上、慎重かつ段階的に進むと見ています。審査対応ができていない状態で飛び込むには負担の大きいカテゴリーなので、初期は検証済みのプロセスを持つチームを中心に事例が積み上がり、その事例が基準となって少しずつ広がっていく流れになるのではないかと思います。ひとつ控えめに予想するなら、一度やってみたクリニックは続ける可能性が高いと見ています。ライブ配信を経てカウンセリング問い合わせの質が変わることを実感すると、以前には戻りにくいものですから。
Q. カンナムオンニのようにまだライブを試していないブランドがあるとしたら、制作の専門家としてまず何をアドバイスされますか。
まずお伝えしたいのは、ブランドと技術ソリューション、制作会社が企画の初期段階から一緒に議論を始めるべきだということです。美容医療・施術のように審査リスクのあるカテゴリーでは、絵コンテ1本を仕上げるだけでも法務の確認が何度も往復しますし、技術リハーサルを撮影直前に慌てて行うと、必ず1つか2つ食い違いが出てくるものです。そしてもうひとつ。今はもう、リスクだけを見て先延ばしにする理由はないということもお伝えしたいです。以前は誰も試していなかったので皆さん躊躇していましたが、いまはカンナムオンニという検証済みの事例があります。初挑戦の負担はカンナムオンニが代わりに背負ってくれたわけですから、後に続くブランドはずっと軽い気持ちで始められると思います。
📌 ポイント。
慎重かつ段階的な普及のスピード、そしてすでに下がった参入障壁。カンナムオンニという最初の事例をきっかけに、美容医療業界でもライブコマースに挑戦するブランドは増えていくと見られます。
インタビューを終えて
ライブコマースはいま、ビューティー製品を超えて、美容整形や施術といった医療分野にまで新たな可能性を広げています。新しい顧客体験をつくるために大胆な挑戦に踏み出したカンナムオンニの第一歩を、心から応援しています。Shopliveはこれからも、AI技術を基盤に安全で信頼できるライブ運営環境を提供し、医療ライブの新しい基準をつくっていきます。
よくある質問(FAQ)
Q. 医療法を守りながらライブコマースを制作するには、まず何を準備すればよいですか。
キューシートを書く前に、審査ガイドラインを確定させる必要があります。効果の断定、価格の表示、口コミ的な表現など、禁止される表現の基準をまず立て、その枠の中で演出を設計する順序が安全です。制作会社・クリニック(またはブランド)・プラットフォームの法務が一緒にレビューする体制を最初から作っておけば、配信当日のリスクを大きく減らせます。
Q. 施術の場面を直接見せずに、医療施術を説明することはできますか。
できます。今回の事例では、施術の原理を比喩で説明する方法を用いました。侵襲的な場面や針を映さずに、日常的な題材にたとえて説明することで、視聴者の理解度と信頼度を同時に高めることができます。
Q. 美容医療業界のライブで、配信中に特に注意すべき点は何ですか。
細かな部分にまで気を配ることが重要です。インフルエンサーのディレクションはリアクションを大きくする方向ですが、医療従事者のディレクションは普段のカウンセリングのトーンをそのまま活かす方向です。講義型の説明ではなく、ホストが尋ねて医療従事者が答えるQ&A構造に台本を組み替えることが第一歩です。そのうえで想定質問対応シートをあらかじめ作り、個別の診断が必要な質問はどこまで答え、どこから診療案内に引き継ぐかの基準を決めておく。さらに、その基準の中で答えられるアドリブガイドを別途用意しておけば、配信中の突発的な質問にも判断が揺らぐことはありません。
Q. 美容医療業界で初めてライブコマースを導入するブランドが、まず準備すべきことは何ですか。
ブランド、技術ソリューション、制作会社が企画の初期段階から一緒に議論を始めることです。規制産業であればあるほど、3者が事前にすり合わせるほど配信当日の変数を減らせます。普及のスピードは業種の特性上、慎重かつ段階的に進むと見られますが、すでに検証済みの事例とプロセスがあれば、初めて挑戦するブランドの負担はずっと軽くなります。


